(株)ビット89  代表取締役  吉田健司

drucker_01.gif う10年以上も前になるが、著名な経営学者であるP.F.ドラッカー博士(2005年11 月他界)の著書「非営利組織の経営」(1991年刊)を大変興味をもって読んだことを、今でもしっかり覚えている。
 僭越ではあるが要点をまとめると、企業 という組織は社会や個人に大きな影響を与えているが、どうしても利益をゴールとした経済性重視の行動をとるため問題も起こす不完全なものとのこと。

 のた め企業組織の潜在的問題点への中和剤として、社会には、理念や倫理観を重視したNPO(=Non Profit Organization)という非営利の組織の存在が不可欠であるという主張である。すなわちこの2種類の組織が存在することで、社会全体のバランスが とれ、同時に、異なった2つの組織はお互いに学びあいながら成長していく補完関係にあるという、示唆に富んだ内容である。ドラッカー博士によると(前述の 著書を出版したころのデータ)、NPOの先進国である米国では成人の二人に一人が「無給のスタッフ」としてNPOで働いており、NPOは全米一の雇用者を 抱える組織ともいえるのである。
 ラッカー博士は、「企業とNPOの最大の違いは、人のマネジメントと利害関係者のマネジメントにある」と指摘している。 そして、企業において報酬だけが動機づけではなく、社会への貢献意義もあるが、NPOにおいて世の中への貢献価値あるいは意義ある仕事による満足が得られ なければ、どうしてNPOで働かなくてはならないかという、欲求不満となり疎外感をもつようになる、ともNPO特有の課題を挙げている。

drucker_02.gif ころで米国の友人(イリノイ大学で文化人類学を専門としているNorma Linton氏)に話題になっているNPOのことを尋ねてみた。すると、Habitat for HumanityというNPOを紹介してくれた。彼女が住むイリノイ州のUrbana-Champaign の町では今年、メインストリートに"Restore"という名前のリサイクル店がオープンしたが、この店では家具などリサイクル品の販売収入を Habitat for Humanity に寄付しているとのことである。
 Habitat for Humanity は1976年にMillardとLindaのFuller夫妻によって設立されたNPOで、地球上の全ての人に最低限の社会基準を満たす家を建て、世界か ら貧困住宅を撲滅することを目標としている。その理念と活動に賛同したJimmy Carter元米大統領夫妻は「Jimmy Carter Work Project」を立ち上げ、建築活動面で毎年支援している。Habitat for Humanityはこれまでに世界で3000以上のコミュニティ、100万人以上の人々を対象に、20万軒以上の家を建てている。ここではただ住宅を提供 するのではなく、住宅を必要としている「ホームパートナー」に建築コストを無利子・無担保で長期間融資し、少額ずつ自力で返済していける自立支援のかたち をとっています。
 このホームパートナーたちの返済ローンは、大体住宅コストの3分の1であり、3分の2はサポーターからの協力となります。この返済された ローンを、また新しい家を建てるために投資していくという「回転資金(Revolving Fund)」という画期的なシステムを構築したお陰で、健全な運営ができるようになりました。また12家族が一緒にお金を貯め、いっぺんに住宅を建設して コストを抑えるという、独自の「セーブ&ビルド(Save & Build)」プログラムも成功しているとのことです。(詳細は、http://www.habitat.org 参照)

 は変わるが、堺屋太一氏は「日本の盛衰」等の著書の中で面白い指摘をしているので紹介しよう。人類はかつて個人や家族を経済活動の中心とした「地縁社会」 を形成していたが、 18世紀後半、英国で始まった産業革命によって経済活動の中心が企業に移り「企業社会」を形成した。そして20世紀末、米国で始まったIT革命によって、 経済活動の中心は個人、企業、そしてNPOという3者に移り、お互いが対等の立場で「ネットワーク型知価社会」を形成するようになってきているということ である。産学連携や企業とNPOのコラボレーションが社会の活性化を促す原動力になるという指摘はドラッカー博士同様、NPOの重要性を再認識させてくれ る。

 NPOにおける代表者の役割について、ドラッカー博士は前述の「非営利組織の経営」のなかで、「トップたる者は、みなの仕事をしやすくし、成 果をあげやすくし、かつ仕事を楽しめるようにすることを自らの責任としなければならない。大義に奉ずるだけでは不十分である。成果があがらなければならな いのだ。」と結論づけているが、スタッフ全員が自覚することが肝要である。

 てこのNPOということばであるが、日本の新聞等で見かける ようになったのはまだここ10年くらいではなかろうか。今年は"2007年問題"と言われ、団塊世代が一斉に定年退職を迎えることで、第2ステージの活躍 の場としてNPOが取り上げられるなど注目されている。これまで企業戦士として日本社会を支えてきた彼らに、定年後は元気なアクティブ・シニアとしてそれ まで蓄積してきたキャリアのなかのマネジメント技能をNPOの組織運営に活かしてもらいたいものである。しかしこの世代は厳しい競争社会に慣れ親しんでき ただけに一所懸命になり過ぎるきらいがあるため、決して"NPO戦士"などにはならないように!


【吉田健司氏プロフィール】
早 稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。旭化成(株)にて、経営企画スタッフとして、全社中長期計画/戦略の策定・構築、予算の編成・管理、設備投資の 採算性評価などに従事。1983年、米国イリノイ大学大学院ビジネススクールに派遣留学・卒業(MBA取得)。1989年、独立し、株式会社ビット89を 設立し現在に至る。著書に『実践!MBAトレーニング~中国ビジネスのケーススタディ』(PHP研究所)、『即戦力が身につく!最強のMBAバイブル』、 『上司を動かす!経営戦略レポートの作り方』(PHP研究所)『CFO養成テキスト-論理的思考方法とオペレーション』(日本CFO協会)などがある。

参考:ビット89のHP=http://www.bit89.co.jp/index.html